大谷知子

子供の足と靴のこと

連載④
「リコスタ」が生まれるところ-その1
故郷は、ドナウ川が始まるドナウエッシンゲン

ドナウ川流域マップ

このコラムは、子供靴ブランド「リコスタ」ホームページのためのものだが、今回は2回に分けて、そのリコスタについて書いてみたい。

「リコスタ」は、ドイツの子供靴メーカー、リコスタ社がつくっている。
もう20年程前になるが、筆者はリコスタ社を訪れたことがある。記憶の糸をたぐり寄せて、「リコスタ」の故郷を紹介しよう。

リコスタ社は、ドナウエッシンゲンという町にある。
フライブルク、もしくはシュトゥットガルトから鉄道を乗り継いで行けるが、筆者の訪問時は、シュトゥットガルトまでリコスタ社のスタッフが車で迎えに来てくれた。そして少し観光をと、ボーデン湖に案内してくれた。

右上の地図を見ていただくと分かる通り、ボーデン湖は、ドイツ、オーストリア、スイスの国境に位置している。シュトゥットガルトからは、シュバルツバルト、すなわち黒い森を車窓に捉えての移動であり、ボーデン湖からドナウエッシンゲンへは、再び黒い森へと向かう格好。ドナウエッシンゲンは、シュバルツバルトの町だ。

ドナウの源泉
フュルステンベルク公居城跡にあるドナウの源泉
(「シューフィル」1998年冬号より)

そして、美しき青きドナウが発するところ。ドナウ川の源泉がある。

それは、町の中心部、ドナウエッシンゲンを興したフュルステンベルク公の居城跡にあった。石できれいに囲まれ、井戸のようだが、目をこらして見るとプツプツと細かい泡が沸き立っている。この水が居城の下を流れるブリガッハ川に注ぎ、ブリガッハが終わるところからドナウが始まる。

また後で知ったのだが、モーツアルトと所縁が深く、現在では、ドナウエッシンゲン音楽祭という現代音楽のフェスティバルが毎年開かれている。それに、ビールの醸造所もある。前述したドナウエッシンゲンを興した王様に因んでいるのだろう。フュルステンベルクと言う。ピルスナー系、つまり日本のような黄色いビールだ。

リコスタの故郷は、こんなところなのだが、人口はと言うと、2万人余り。リコスタ社のスタッフが「人間より牛の数の方が多いかもしれない」と言ったが、頷きたくなってしまった。そして驚いたことがもう一つ、宿泊したホテルの目の前にセスナ機と滑走路。その向こうは、見渡す限り草原が広がっていた。

靴づくりの話は、次回に。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。