大谷知子

子供の足と靴のこと

連載75 スクールシューズ

リコスタのホームページに、スクールシューズが登場しています。
実は、私は以前からスクールシューズに興味を持っていました。なぜなら欧米、特にイギリスの子ども靴ブランドには“school shoes”として括られたグループがあるからです。
リコスタは、ドイツの靴メーカーであり、ブランドですが、スクールシューズというジャンルがあり、またスクールシューズは、ドイツ国内だけでなく、主にイギリスに輸出しているのだそうです。
それでリコスタが日本でも本格的に販売を始めるのを機会に、英国の事情を調べてみました。調べるには、ネット検索が手っ取り早い。Googleに「イギリス スクールシューズ」と打ち込んだら、イギリス在住の日本人ママのブログが、幾つかヒットしました。
その中でもっとも興味深く、かつ参考になったのは、「スクールユニフォーム」について書かれたものでした。

●スニーカータイプもOK。でも、黒の革靴に限定
ユニフォームとは制服ですが、ブログを読むと、日本のような制服ではなく、小学生が通学に着用する標準服のようなもののようです。学校によってグレー、ブラック、ネイビーと色指定はあるとのことですが、デザインは、ポロシャツ、ワイシャツ、トレーナー、長ズボン、ハーフパンツ、女の子は、プリーツやフリルのスカートやジャンパースカート、夏場はギンガムチェックのワンピースなど。これらをどう組み合わせるかは自由。また日本の制服は、学校が購入店を指定しているのが通例と思いますが、スーパー、高級百貨店、またブランドショップ等々、どこで買おうが一切、制約はなく自由なのだそうです。だから経済状況や親や子どもの好みに応じて、高いものでも安い物でも、自由に選んで組み合わせることができる。また、大型店にはスクールユニフォームのコーナーがあるようです。
そして、これは靴、つまりスクールシューズも同じ。標準となるスタイルはというと、まずオックスフォード、つまり紐靴、これに穴飾りのあるもの、女の子はメリージェーン(ワンストラップ)がもっとも典型。その他、面ファスナーのスニーカータイプといったところです。
但し、黒の革製であることは、どこの学校でも指定されている。例外は、夏場の体育シューズとして用意するように言われるプリムソールだけ。プリムソールとは、ゴム底のキャンバスシューズのイギリス特有の名称。分かり易く言うなら、ズック靴です。英国では、革靴へのこだわりは深いようで、執筆者のママさんは、子どもが保育園の頃にスニーカーで通わせていたら、お義母さんから「足の形が悪くなるからそろそろ革靴にさせた方がいい」と何度も言われたと書いています。
また、いろんなレベルの店でスクールシューズを扱っているのは、服と同じ。百貨店のオンラインストアで“school shoes”を検索したところ、中級のマークス&スペンサーでも、高級のハロッズやセルフリッジでも、前記のような革製オックスフォードやメリージェーンが、いくつもヒットしました。
リコスタのスクールシューズも、黒の革製。オックスフォードやメリージェーンが顔になっています。

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●起源は、パブリックスクール…
ではなぜ、イギリスにスクールユニフォームやスクールシューズが生まれたのでしょうか。
イギリスの学校でよく知られているのは、パプリックスクールではないかと思います。「パブリック=public」は、「公共の」、あるいは「公的な」という意味ですから、公立学校と思われがちですが、全く逆。13〜18歳を対象とした私立学校であり、著名な政治家などを多く輩出しているエリート校です。なかでも「ザ・ナイン」と呼ばれる9校が有名ですが、例えばその一つ、イートンカレッジは、1440年にイングランド王ヘンリー6世の創設というように長い歴史を持ち、その歴史と格を物語るような制服があります。どんなスタイルかと言うと、燕尾服にピンストライプのパンツ、そして白の蝶ネクタイというもの。まるで英国紳士を地で行くようなスタイルです。
イギリスには、歴史に裏打ちされた学生のスタイルがある。それが非常に自由な形で現在の小学生の標準服や靴として受け継がれていると言えないでしょうか。スクールシューズの基本であるオックスフォードは、オックスフォード大学の学生が愛用していたことからのネーミングということからも、頷けるように思います。
さらにスクールシューズには、もう一つ、注目して欲しいことがあります。それは、足の健康への着目です。
デザートブーツで知られるクラークスは、イギリス国内では、子ども靴で圧倒的なシェアを持っています。その創業の地、イギリス南部のストリートという町にある、クラークス社の博物館を訪れたことがあります。展示の中に子ども靴をテーマにしたエリアがあり、適正なフィッティングを実現するために、クラークス社が開発した歴代の足型計測器が展示されていました。その開発は、1950年代に始まり、計測データを基に研究が行われた結果、子ども靴には四つの足幅を用意するようになったと言います。
リコスタは、三つの足幅を規定したWMSに準拠しています。
スクールシューズは、歴史から生まれ、足の健康が配慮されているのです。

 

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。