大谷知子

子供の足と靴のこと

連載① 私が子供靴の本を書いた訳

私は、靴ジャーナリストという肩書で仕事をしている。

ビジネスからファッション、健康まで、靴をオールラウンドに取材し原稿を書いているが、「子供靴はこんなに怖い」(宙出版)というタイトルの著書もある。20年も前、1996年の出版だが、それが子供靴のスペシャリストという見方を作ってくれ、ここに執筆する理由でもある。

では、なぜ子供靴についての本を書いたか。

「子供靴はこんなに怖い」(宙出版)
「子供靴はこんなに怖い」(宙出版)

それは母親としての体験に根差している。
長女を出産した時、靴業界誌編集部に勤めていた。
そんな環境なので、同僚からもらった出産祝いはアメリカの有名子供靴ブランドのベビーシューズだった。
真っ白な革の外羽根ハイカットの紐靴、ソールは革。シンプルですごく可愛い。
いよいよつかまり立ちをするようになり、その靴を履かせた。

しかし子供の足はプクプク、ぽちゃぽちゃ。
いただいたベビー靴は革底だし、全体に硬い。こんな柔らかい足に、硬い靴を履かせて大丈夫なのか。不安が頭をもたげた。
ベビー用品店や百貨店で販売されている靴は、ほとんどが柔らかい。
不安はなおさらだった。
硬い靴、柔らかい靴、どっちが足に良いのか。答えが出せないまま、長女出産から5年後に長男を出産した。

出産後も靴業界誌編集部に勤め、編集取材記者として働いていたが、その頃、靴業界は健康靴ブームのまっただ中にあった。
そんな中、シューフィッターを養成・認定をする団体から講演の知らせが届いた。
イギリス・クラークス社のコンサルタントを長く務めた靴研究家ジョン・ヒックスさんが、子供の足と靴について話すというのだ。

クラークスは、日本ではデザートブーツで知られているが、イギリス国内では良質な子供靴を製造するメーカーとして消費者の信頼が厚く、自社に靴研究所を持っている。

ヒックスさんは、講演の冒頭で、こう言った。

「生まれたばかりの赤ちゃんの足は、3分の2が軟骨です」

私は、頭をガンと殴られた気がした。

軟骨は、カルシウムが徐々に溜まり、骨に変わる。これを骨化(こっか)と言うが、特に骨化が進んでいないのは、踵部分。踵は七つの骨で出来ているが、それが生まれたばかりの頃は、レントゲン写真に写る骨は、ボーッと一つだけ。3ヵ月で三つ、1歳半で六つ。
ほとんどの赤ちゃんが歩き始めていると思うが、まだ一つが骨になっていない足で歩いているのだ。

骨の成長
踵部分の骨の成長
(宙出版刊「子供靴はこんなに怖い」より)

骨がないからプクプク、ぽちゃぽちゃなんだ!
そんな足で歩き始めるのだから、強い衝撃が加わると、骨がずれてしまうかもしれないし、正しい成長に悪影響を及ぼしかねない。

足が守れる、硬い靴の方がいいんだ!

ほとんど軟骨なのを知っていたら、すぐに判断がついた。
なぜ、こんな大事なことを教えてくれないのか。誰も教えてくれないなら、私が本に書いて知らせよう!!

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。