大谷知子

子供の足と靴のこと

連載59 「待つ」ことの大切さ

久しぶりに取材原稿を書きました。
コロナ禍の中、取材先は遠方もあったことも手伝ってリモート取材もありましたが、通信技術、それにコロナ禍がビデオによる会話や打ち合わせを普通のことにしてくれました。
ビデオでも、顔、つまりは表情が見られると、感じる情報量が多くなります。リアル面接なら、もっとです。
取材テーマは、「足育」。靴、特に子ども靴に関わる方には、説明の必要はないと思いますが、敢えて定義づけをしてみます。
「足育」とは、「足を健康に育てることによって、全身を健全に育むこと」。そして、そのツールとして靴が、大切な役割を果たします。
取材したのは、足育に取り組む保育園や幼稚園です。
足育に取り組むきっかけは、「歩き方がおかしい」「散歩に出るとすぐに音を上がる子どもが目立つ」といった保育士さんの気づき。その中には、裸足保育を長年、実践する園もありました。
そして、気づきの後に行ったのは、多くが足計測。その結果、浮き指やアーチの未発達が明らかになり、それを改善する方法として靴指導を開始。たいていが、こんな流れですが、「靴選びのポイントは知っていましたが、履き方も大切と知って目から鱗。履き方指導は、すぐに始められるので取り入れました」という園もありました。
その園には、実際に伺いましたが、いろいろなお話の中でいちばん印象的だったのは、園長先生がおっしゃったことでした。
「お迎えに来たお母さんが、“ゆっくりでいいよ。そうそう、上手にできてる”と、靴を履く子どもを見守っているんです」。
私は、「待っているのですね」と返しましたが、先生は「そうなんです」と笑顔で頷きました。

●待てば海路の日和あり
「待つ」ということについて、忘れられないことがあります。
地域のある会合に出席した時のこと、本題が終わり雑談の中で子どもの我が儘に手を焼くといった話になりました。その時、ある男性が言いました。
「よく行くスーパーに子どもの遊び場があって、そこで遊ばせるんですが、買物が終わったからと連れ出そうとすると、たいていは“うん”と言いません。無理矢理やめさせると、地団駄を踏んだりたいへん!そんな時は、子どもが飽きるまで待ってます」。
「待っている」という一言にハッとしました。私は、私の都合で止めさせたり、急がせたり、私がやってしまったりしていたからです。
生活は、大人の時間で動いています。その中で重視されるのは、効率。靴においても、紐靴が嫌われ、正しい履き方が根付かないのは、大人が正しい履き方を知らないのに加えて、大人が教えるのや時間が掛かる、つまり非効率を良しとしていないからではないでしょうか。
子どもが一人でやるのを、見守り待つと、子どもは、自分で上手にやる方法を身に付け、その中から靴の大切さを自分で発見するかもしれません。
待てば海路の日和あり。海路の日和が訪れるのは、子どもが成人してからかもしれませんが。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。