大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㊷ ほやほやの仲間の足に思ったこと

新しい仲間がやってきました。とっても小さな仲間です。この世に生を受けて、まだ1週間。まっさらです。
足も、もちろんまっさらさら。
キャー、小指の爪がちゃんとある!可愛い!
なりたてほやほやの伯母ちゃんが、感嘆の声を上げました。
それは、そうでしょう。ほとんどの人、女の子ならペディキュアをしてみようかなと思い始めるくらいの年齢まで、自分の足、ましてやいちばん端っこの小さな爪など気にも掛けていないでしょう。それが改めて見てみると、
えっ、爪がないの?!
他の爪と全然、違う!!!
潰れているの…、色も違う…、不格好…
落胆します。
でも、これで終わり。生まれた時は、ちゃんとした爪があったという認識はないし、なぜこのような爪になったのかなど、思い至りません。

●足の中味が見えたなら…
ほやほや伯母さんの感嘆ぶりに触発され、馬鹿なことを考えました。
足の中味が見えたら、どんな反応を示すのだろうか…。
生まれたばかりの赤ちゃんの足の骨は、ほとんどが軟骨。極端に言うと、骨がありません。足の甲のこんもりした辺りは、中味がなくてスカスカ。そんなふうに見えるでしょう。
ほやほや伯母さんにのみならず、お母さんも、お父さんも、
ひぇー、これ、大丈夫なの?!
乱暴に扱うなよ!大事に、大事に。
そして1ヵ月、3ヵ月と経つと、スカスカだったとところに何やら現れ始めます。
おい、見て見ろよ、これ、骨じゃないか!
わぁー、良かった!ちゃんと育ってるんだね!
下の歯茎の真ん中に乳歯が顔を出した時のように感動し、安心するのではないでしょうか。
でも、足の中味は見えないので、こんな感動の場面は、絵空事です。

●知っていれば、ねぎらえます
お母さん、お父さん、それにほやほや伯母さんも、関心事は、赤ちゃんが、どんな行動ができるようになるかです。
寝返り、ハイハイ、お座り、そして
つかまり立ちができるようになったわよ!
おい、伝い歩きしてるぞ!
キャー、一人で歩いている!
何が、いつできるようになるか、一喜一憂。歩けるようになったら、拍手喝采、大喜びです。
でも、その動きを可能にしている足は、蚊帳の外。おまえ、頑張ってるな!と、足に頬ずりしてあげる人は皆無でしょう。
その足をねぎらうための唯一の方法は、知識。足がどんなふうに生まれ、どのように発達し、どんな役割を果たしているかを知ることです。
知っていれば、実際には見えなくても想像力という目が見せてくれます。
足くん、ご苦労さま、と言ってあげられます。
幸い、ほやほやお祖母ちゃんは、知っています。多くの人に想像力という目を持ってもらうことに頑張らねばなりません。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。