大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㉖ サクレクールと紐靴

パリの休日。素敵な響きです。
パリには、何度も行ったことがありますが、すべてが仕事絡み。となると、必然的に一人。今度は、違う。ミラノで開催の二つの展示会の狭間の数日を休日とし、パリで過ごすことにしたのです。そして一人よりは二人と、娘を誘いました。パリで過ごす母娘の休日。私としては、大決断でした。
娘は、一人旅ばかりしています。だから、言いました。一人じゃないから楽しいことをしよう。
バトゥ・ムッシュに乗る。
人気のビストロに行き、食べたいものを、あれも、これも頼む。
行っていない博物館、美術館巡り。例えば、自然史博物館の進化の大ギャラリー…等々。
心が躍っていました。
しかし私の場合、現実は“素敵”を叶えてくれないもののようです。パリで娘と合流した翌日、風邪をひいてしまったのです。節々が痛い、だるい、食欲がない…。
回復してきた時には、パリ滞在が終わろうとしていました。

●小公園で遊ぶ子ども達
ただ一つ実現できたのは、サクレクール寺院詣。娘は、サクレクールが大好き。パリに行ったら、必ず立ち寄っています。
しかし、病み上がりにも似た体調で、あの階段を上りきることができるだろうか…。
階段に挑む前に、早くも小休止。登り口のところに小さな公園があり、そこのベンチに腰を掛けました。
そこは、観光客のためというより住民たちの憩いの場所である様子。もしかしたらベビーシッターかもしれない中年の女性、おばあちゃんらしき人、それに仕事がお休みなのか、お父さんに連れられた2、3歳の子どもが遊具で遊んだり、駆け回ったりしていました。
自然と足元に目が行きます。遠目でも分かる、良い靴を履いています。どの子も、足首を被う丈の紐靴です。
今更ながら、日本ではどうして紐靴が嫌われるのかと考えてしまいました。
日本は、脱ぎ履きが多い生活スタイルだから。そう言われていますが、本当だろうか…。ヨーロッパの人たちも、脱ぎ履きをしている…。単なる習慣の違いでしかなく、それによって紐靴の効能を捨ててしまっているなら、こんなにもったいないことはない。紐で締めた方が固定性は高いし、足に合わせるという調整機能も優れているのに…。
考えても仕方のないことを、小休止の間に考えてしまったのでした。

●紐靴文化は、神の思し召し…
登り詰めたところに、サクレクールは美しく、厳かにそびえていました。但し、モノレールの力を借りました。神は優しい。文明の利器も用意してくれているのです。
そしてサクレクールを背にして立つと、パリの街が眼下に見渡せます。その景色の何と美しいことか!青く晴れた空には、飛行機雲が線を描き、それも美しさを際立たせます。
サクレクールは、偶然にモンマルトルの丘に建てられたのではないはずです。調べてみたら、パリのサクレクールは、古いものではなく、完成は1914年。いささか拍子抜けしたのですが、キリスト教の教会堂は、これまでに行ったことのあるすべてが、その立地、天井の高さとその上の塔やドーム、ステンドグラス、それらがキリストという神の存在を信じざるを得ない装置として計画されていると思ってしまいます。
サクレクールも例外ではありませんが、ここまで階段を上がってくるには、紐靴が最適。ヨーロッパ人が、紐靴を普通に受け入れているのは、神の思し召しかもしれません。
閑話のまま失礼いたします。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴辞典」(シューフィル刊)がある。