大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㉟ 足、靴は優先順位が低い。なぜ?

子どもの足と靴の話をしたら、「優先順位が低い」という言葉が返って来ました。
足も、靴も、低いのか…。では、何が高いんだろう…。
育児でどこのケアに最も関心が高いか。それは、歯ではないでしょうか。
乳歯が生えると、お母さんは、すぐに歯磨きを始めます。赤ちゃん用歯ブラシが何種類も売られています。赤ちゃんの歯磨きは、常識と言えるでしょう。
その歯のトラブルに噛み合わせがあります。歯医者さんに噛み合わせの狂いを指摘され、いくら調整してもらっても、顎の痛みなどが取れない。そんな時は、足を疑ってください。
人間は、正面を向いていることが、本来の正しいポジションだと無意識のうちに認識しているそうです。
歩く時、足をまっすぐに踏み出すことができず、外側に流れると、体は、ちょっと外側に向きます。
すると体は、“正面を向いていないぞ、ヤバい!”と感知し、正面を向かせるように補正しようとするのだそうです。
どうするかというと、膝を内側に入れ、正面を向けさせようとします。すると腰は、内側に向き過ぎたぞ、直さなきゃと、外を向く。この動きは、肩、首、頭と連鎖して行き、ついには体全体のバランスを崩し、噛み合わせも狂わせてしまいます。
これを考えると、歯をきれいに育てたいなら、まず足!優先順位は低いどころか、一番に躍り出ます。

●足は生まれてから育つ
生まれたばかりの赤ちゃんの足の骨は、3分の2が軟骨です。立ち、歩くことに重要な役割を果たすアーチも未成熟です。
だから生まれてすぐには歩けません。ほとんどの赤ちゃんが歩き始める1歳半頃も、軟骨状態の骨があります。大人、言い換えると成人、いってみれば、成体と同じように立ち、歩くには、2年、3年と掛かります。
直立二足歩行は、人だけの能力です。
しかし二足で全身を支え、歩行を進めるには、足に大きな負担を強います。
足をその負担に耐えうる器官にするには、母胎の中で成熟させることはできず、生まれてから行う運動という鍛錬が必要だからではないでしょうか。
人は「ネオテニー」だと言った学者がいらっしゃいます。霊長類学者の河合雅雄さんです。
このコラムの連載2回目に書いたので、繰り返しになりますが、読んでください。
ネオテニーとは幼形成熟。成体としての機能を備えず生まれてくることだそうです。
でもなぜ、人はネオテニーなのでしょうか。河合先生に伺うと、
「人間は社会的な動物だから。集団の中、コミュニケーションによって育つことを宿命づけられているのです」という答えが返ってきました。
親の存在、また群れて遊ぶといったことが、人間を健全な成体に育てる。言い換えると、育てることが必要とされているのです。
それを象徴する器官が、人を人たらしめている直立二足歩行を司る足ということではないでしょうか。
高い知能も人を人たらしめている能力ですが、脳も、生まれてから育ちます。
生まれたばかりの赤ちゃんの頭蓋骨は柔らかく、大泉門が開いています。産道を通りやすくするのと、生まれてから急速に大きくなる脳の成長に対応するためです。
脳については知られていますが、足は知られていません。
だから足を育てるのに重要な役割を果たす靴には無頓着。ベビーカーやチャイルドシートは安全性を入念にチェックし、高額出費もいとわないし、服に1万円出すことはあっても、靴は“すぐに小さくなってしまうからもったいない”と節約が優先されてしまいます。
私は、「優先順位が低いのは、足がどんなふうに育ち、どんな役割を果たしているか、その足にとって、靴がどんな役割を果たすかを知らないから。それを知れば、優先順位は高くなります」と答えたのでした。

足の踵部の骨は7個。1歳半では、6個しかありません。
(拙著『子供靴はこんなに怖い』より)

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴辞典」(シューフィル刊)がある。