大谷知子

子供の足と靴のこと

連載87 足の健康と床材の関係

自宅敷地内の離れを壊すことになりました。築100年余りと思われ、いずれは壊さなければならなかったのですが、その時がやって来たのです。
木造・瓦葺。欄間があり、床柱は天然木、中央にガラスをはめ込んだ桟の細い障子…、掛け値なしの純日本家屋。今、こんな家を建てようと思っても建てられない。古民家再生も考えましたが、費用面で検討の余地なしでした。
解体工事が近づき、いよいよか…と眺めていて、床と足の関係を書いてみようと思いつきました。
日本家屋では、板張りはたいていは廊下、玄関の上がり框、それにお勝手、つまり台所に繋がる板の間くらい。その他は、畳を敷いた座敷です。
それが暮らしの洋風化が進んだ現在は、畳敷きの部屋は、あっても一室、あるいは部屋の一部。ほとんどがフローリングです。また、保育園、幼稚園、学校では、樹脂系の床材も使われているようです。
加えて工法も、多様化しています。木造の純日本家屋では、畳の下は板張り、もしくは板敷きですが、鉄筋コンクリート造の共同住宅であるマンションは、フローリングの下はコンクリートが一般的でしょう。
子どもの未熟な足に悪い影響を及ぼさないためには床への配慮が必要という議論があるのですが、その背景には、前記のような住環境の変化があるのです。

日本家屋画像

●畳のG値は、フローリングの約3分の1
では、どんな床が、足に良いのでしょうか。
床材と足との関係を説いた研究論文があるのではないかと、ネット検索をしてみたところ、建築業界でも、特に歩行が不安定な子どもと足が弱くなっている高齢者の転倒防止という安全性の観点から床材の適正弾性や衝撃吸収性を探るといったものが、いくつかヒットしました。でも、導き出された結論は、しっくり来ませんでした。
そこで床材ごとの衝撃吸収性を比較してみればいいのではないかと思い付き、調べてみました。それをまとめたのが、下の表です。
衝撃吸収性は、衝撃の強さを示す「転倒衝突時の衝撃加速度」というもので評価され、G値というもので表されます。G値の「G」とは、重力を意味する「gravity」の「G」です。床材のG値は、100G以下が望ましいとされているそうです。

床のG画像

付け加えると、カーペット敷きは、下にフェルト地を敷くとG値は70~80、敷かないと100強のようです。
屋外の地面の環境としては芝生が良いとされていますが、天然芝のG値は「70強」です。
また、床のG値は、下地によっても変化し、コンクリートの上に直に床材を貼るとG値は150、コンクリートの上に根太(ねだ)という木製の部材を入れると根太の上部のG値は117、さらに根太を支える大引きという部材と組み合わせると、同じく根太上部のG値は66になります。
さらにフローリングとは、木質系床材を意味し、無垢と複合(合板)の2種があります。使用される木材は、サクラやナラ(オーク)が一般的ですが、衝撃吸収性や快適性に優れているのは、スギ。スギは、空気を多く含むため、それがクッションの役割を果たし、衝撃を吸収してくれる。また、繊維間の空隙(すき間)が湿気を吸収し、乾燥してくるとその湿気を放出するのだそうです。
床材のG値は、値の数字ではなく、材質による違いに着目して欲しいと思います。そして床材や床の構造によって衝撃吸収性は、明らかに違うということが分かりました。子ども達の足の健康という観点で、床に注目してみてはいかがでしょうか。
さて、畳のG値は、木床フローリングの約3分の1。日本人は、足に優しい住環境で暮らしていたのですね。

 

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。