大谷知子

子供の足と靴のこと

連載⑫ 教育界でも靴への注目が始まっている。

学校でなぜ、靴と足のことを教えないんだろう。
子供靴に問題意識を持ってすぐに抱いた単純な疑問だった。
もう50年以上前のことになってしまったが、自分の小中学校時代を思い起こしてみると、家庭科で実際に服を作ったし、衣替えの時期や季節、季節でどんな衣服を揃える必要があるかも習った記憶がある。
これも10年も前のことだが、今の教科書にはどうなっているのかと、住んでいる市(因みに埼玉県行田市。TBS系で放映中「陸王」の舞台として知られつつある)が採用している小学校5・6年生家庭科の教科書を教育委員会で借り、調べたことがある。 あった!衣服計画の項目にトータル・コーディネートを考えなければならないとあり、イラスト入りで、だから「靴」にも配慮と書かれていた。
他は無し。これだけ。教科書の着目は、足の健康よりもファッション的見地の方。そのくらい健康具としての靴の認識は低い。というより全く重要視されていないということだ。

●吉村眞由美先生の「シューエデュケーションⓇ」
それが最近、様相が変わりつつある。先鞭をつけたのは、早稲田大学人間科学学術院招聘研究員の吉村眞由美先生だ。前職の名古屋・金城学院大学教授時代からドイツでの現地調査を含め子供靴の現状を研究し、大きめを買うなど経済性を優先する保護者の購買意識、また靴メーカーもアニメのキャラクター靴など子供の興味に訴える商品開発をしているなどの現状を強く認識。「誰も靴教育を受けていない、基礎知識がないことが無知や無頓着を生み、いろんなねじれた状況を生んでいる。それを改善すれば、突破口になるのではないか。それには、義務教育ですべての子ども達に靴の基礎知識を届けることが必須であり、日本中の子ども全員が等しく知識を得る教育を受けられる制度の構築を最終目標に据え、保育・幼稚園から小中、そして高校における具体的な指導内容を構築して行くことにしました」(吉村先生)。
そして立ち上げたのが「シューエデュケーションⓇ」。「『かかとトントン』靴を正しく履こうね」を合い言葉に、靴の正しい使い方教育を啓蒙・推進、また保育士や幼稚園教諭を目指す大学生や専門学校生を対象に「正しい靴教育を行う指導者・シューエデュケーターⓇ」を養成する活動に取り組んでいる。因みに「シューエデュケーション」「シューエデュケーター」は、吉村先生が商標権を持つ登録商標だ。

吉村先生による小学校での足育授業風景
吉村先生による小学校での足育授業風景
(画像提供:吉村眞由美先生)

●学体連が足育事業を推進している
義務教育としての靴教育の実践には、教師などの教育者が靴に目を向けてくれることが不可欠だが、その動きも出て来ている。
学校体育に関する研究調査や学校体育指導者の資質向上事業などに取り組む(公財)日本学校体育研究連合会(略称:学体連)が、足育(あしいく)推進事業に取り組み始めているのだ。
平成25年度に「『足育』パンフレット−足育指導資料」を発行して以降、28年度第二集改訂版、さらに改訂版は4版を重ね、小学校各学年学級活動としての学習指導案の作成、それに基づく研究授業の実施などに取り組んでいる。ホームページに、平成26及び27年度に東京都練馬区立大泉西小学校で足育に取り組んだ実践報告が掲載されているが、1年生、3年生、5年生への足育授業、フットプリンターによる児童の足型測定、また教職員を対象とした足育講習会、教職員及びPTA役員会での足計測体験といった内容になっている。
こうしたことが継続され、教育界全体に靴教育の必要性が広まっていけば、義務教育の教科書に靴とその履き方の基礎知識が掲載されるようになるかもしれない。
トータル・コーディネートとして靴が欠かせないことを取り上げても、靴の基礎知識が欠如していたのでは、服飾文化全体が低レベルになってしまう。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。