大谷知子

子供の足と靴のこと

連載③ 子供靴は、足を育てる育児器

アイスマンシューズ
復元されたアイスマンの靴
(C)South Tyrol Museum of Archaeology/Ochsenreiter

靴って、何? どうして、靴を履くんだろう?

そんなこと、普通は考えない。当たり前に毎日、履いているが、考えてみると、靴の姿かたちが違って見えてくるかもしれない。

1991年、ドイツ人夫妻がアルプス渓谷の氷河で「人」を見つけた。遭難者か?さにあらず、5000年も前の人だった。彼は、「アイスマン」と名付けられ、発見場所に近いイタリア・ボルツァーノの考古学博物館に収蔵されている。衣服を身につけ、中に藁が敷き詰められた毛皮製の靴を履いていた。これから分かるのは、靴は、足を保護する役割を果たしていたということだ。

しかし時代が進むと、保護とは縁遠いスタイルの靴が登場する。

歩けないくらい爪先が長~い靴、脱げてしまうくらい履き口が広くて浅い靴、そして高いヒール。ヒールは当初、男性のものだった。ある階級を表す、あるいは権威の象徴といった役割を持っていたようだが、これがファッションとしての靴に通じ、現代では、靴はファッションの一部として受け止められている。

だが、現代人は靴を履かずに歩けるだろうか。
夏の炎天下の道路は、アチチチッ!小石でもあろうものなら、イタタタタッ!歩けたものではない。靴を履くことが当たり前が故に忘れているが、靴は、歩くための道具だ。

ジャングルジム

では、子供にとって靴とは、何なのだろうか。
連載①で書いた通り、生まれたばかりの赤ちゃんは、足の骨の3分の2が軟骨。加えて骨を支える筋肉やじん帯は、細い。筋肉やじん帯は、「動く」、つまりは「使う」ことによって強く育つ。そして赤ちゃんは、使える仕組みを持っている。

足は第二の心臓と言われている。心臓から送り出された血液は足の筋肉の収縮によって心臓に押し戻され、血液の循環が可能になっているからだ。この、いわば筋肉ポンプを最も使っているのは、小さな子供。歩き始めでも、よく動き回り、親やおばあちゃん、おじいちゃんは追い掛けるのに四苦八苦。小さな子供がいる家庭の日常風景だが、大人が大変なほど子供が動けるのは、実は筋肉ポンプの働きが活発だから。そしてなぜ活発に働かすことができるかと言うと、筋肉が細いからなのだそうだ。

つまりは、小さな子供は、筋肉が細い故に活発に動くことができ、動くことによって、筋肉が育つ。育つために未熟なのだ。そして筋肉と骨は密接に関係し合い、筋肉が育てば骨が育ち、骨が育てば筋肉が育つ。お互いに育て合う関係にある。

こんな子供にとって靴は、未熟な足を守るだけではなく、育てることにも関係している。言っていれば、子供にとって靴は、歩くための道具を超えて、足を育てる育児器なのだ!
靴は育児器と知れば、可愛いのが子供靴といったイメージは、随分と変わるのではないだろうか。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。