大谷知子

子供の足と靴のこと

連載⑧ 「良い靴とは」の知識を、知恵に変える

今回は、良い子供靴とはどんな靴なのかについて書いてみたい。言い換えると、これが購入の際のチェックポイントになる。
ポイントは、図に示した通りだ。
はい、分かりました。よく覚えておきます。
優等生の回答だが、それでは、この記事は、これで終わってしまうし、そもそも丸暗記では応用が利かない。理由と一緒に理解してこそ、使い回しが聞く知識、つまり知恵になる。

①しっかりした踵→④ ⑤
(番号は、図の番号に対応。以下同様)
足は、全体重を受け止め、全身を支えている。その足に履く靴は、足を支えなければならない。「支える」とは、ぐらぐらしないように一定の位置に保持するということだ。踵を指で押すと、クタっと潰れてしまうような靴では、支えることはできないだろう。だから靴の踵には、カウンター、あるいは月型芯と呼ばれる芯を入れるのが、靴づくりのセオリーだ。
また踵の形も重要だ。靴が足の踵に沿ってくれれば、支える機能が増す。だから靴の踵は、足の踵のように丸味を帯びていなければならない。
「しっかりした踵」とは、以上のような意味だ。そして、紐やマジックテープ(調整具)で足に合わせて靴の留め(④)、さらに足首をホールドできるブーティ(⑤)ならば、さらに支える機能が高まり、安定して歩くことができる。

②指の付け根辺りで曲がる→⑥ ⑦
足は言うまでもなく、歩くための器官だ。では、歩くとは、どういうことかと言うと、重心の移動で捉えると、踵のやや外側で着地し、その後、重心は、足の外側を通り、小指の付け根辺りに達すると、横に移動し、親指の付け根を通り、指先から抜ける(図参照)。つまり歩くとは、あおるような運動であり、指の付け根で返って(曲がって)いる。靴が、この足の運動を妨げてしまっては、元も子もない。だから靴も、指の付け根辺りが曲がらなければならない。
さらに言えば、指は蹴り出すように運動し、次の一歩への推進力をつけ、また着地すると、足はやや伸びる。だから、爪先には、指が運動するためのスペース(⑥)として高さと余裕が必要だ。また、爪先がやや上がっている(⑦)方が、蹴り出しをスムーズに行え、つまずいて転ぶといったことを予防できる。

③弾力性のあるソール
立っていても、歩いていても、足には、全体重が掛かり、かつ地面から押し返されている(床反力)。歩くとはエネルギーの発生なので、それは重さになって、歩いている足に掛かる。それでも足が崩れないのは、衝撃吸収器であるアーチ(土踏まず)があるからだが、靴の衝撃吸収器は、ソールだ。弾力性があり過ぎるのは、着地の不安定さに繋がるので問題だが、適度な弾力性は、着地した時の衝撃を吸収してくれる。

以上は、大人の靴にも共通することだ。しかし、発達途上にある子供の足は、大人の足より能力が低い。だから、良い靴を選ばなければならない必要性が、大人よりもずっと高いのだ。そして例えば、踵がしっかりしていなければならない理由を知っていれば、踵に不安があるなら、靴を足に留められる調整具付きやブーティを選ぶという対処ができる。これが、知恵ではないだろうか。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。