大谷知子

子供の足と靴のこと

連載82 上履きに求められる性能とは。

前回の続き、上履きのお話です。
学校で靴を脱ぐのは、日本だけではない。ドイツの小学校でも、靴を脱ぎ、靴やコートなどを置くスペースが設けられているとのことです。
では、校内では、どんな靴を履いているのでしょうか。
ドイツの小学校を取材・報告した、シューエデュケーションⓇを提唱する吉村眞由美さんにお話を伺ったことがありますが、健康サンダルのようなものを履いているのだそうです。
ドイツの健康サンダルと言えば、世界的ブランドがありますが、そのブランドに限らず健康靴系のブランドは必ずと言っていいほどラインナップしています。それほどドイツの暮らしに浸透していると言えましょう。
健康サンダルの特徴は、フットベッドです。
説明の必要はないかもしれませんが、フットベッドはネーミングの通り、足のベッド。中敷きの面に起伏があり、その起伏は、足裏の形状と凸と凹の関係にあります。中敷きの土踏まずのところは盛り上がり、逆に踵のところは窪んでいるといった具合に、凹に凸、凸に凹がはまり、足を安定させ、かつサポートしてくれます。だから、甲を覆う部分が少ないサンダルでも、安定して立ち、歩くことができます。

●改良版が一般的に流通している
日本では、どんなものを履いているのか。皆さん、よくご存じですよね。上履き、つまりバレーシューズ、もしくは前ゴムシューズです。
学校などでは、上履きは室内履き、つまりはスリッパのように考えているようですが、子ども達が上履きを履いて過ごす時間は、1日6時間以上になるでしょう。また、体育館での体育も上履きという例もあるようです。
となると、スリッパでは不十分。靴としての性能が求められます。
こうした見方は、かなり以前からあり、学校などに対して上履きの改善を求める動きがありました。しかし、長く行われてきた習慣というか制度は、簡単には変わりません。
それが近年、上履きを製造している靴メーカーから改良版が発売され、一般に流通するようになっています。
どこが改良されているかと言うと、
①面ファスナーのベルトを取り付けたり、甲を覆う面積を広くし、ホールド性を高めている
②踵をホールドするカウンター機能を高め、歩行時の安定性を高めている
③底材の材質、また厚みを変更し、体重を受け止め、かつ歩行時の衝撃にも配慮している
④歩行時の屈曲に対応できるようにアウトソールを設計している
⑤フットベッドのような立体型の中敷きが装着されている
改良版が、上記のすべてを行っている訳ではありませんが、二つから三つへの対応が見られます。一口に言えば、スリッパから靴への改良が行われています。なかには、外履きとして着用可能なものもあります。
但し、価格は高くなっています。ネットで検索してみると、従来型の上履きは500円を切るものもあるのに対して、改良型は、中心価格が2000円台後半。なかには5000円以上のものもあります。
靴は、足を守り、快適に歩くための道具です。その観点に立つと、それが500円でできるかというと疑問です。上履きに限らず、靴の値頃感は上がってしかるべきと思います。

画像上履き改良版(上段中央は筆者が撮影、他はネットから転載)

●甲周り、幅の調整はどうするか・・・
そして最後に残るのは、甲周りや幅への対応でしょう。
実は、上記の画像のなかに、足長21.0㎝以上になりますが、狭・中・広の三つの幅を展開しているものがあります。しかし、特定の売り場などでしか販売されていないので、一般には手に入れにくいようです。
では、足の細いお子さんは、どうするか。上履きに限ったことではありませんが、中敷きによる調整ということになると思います。
中敷きを入れると、靴の容積が小さくなるので、ぶかぶかの調整に効果があります。でも、中敷きの分、足が上に上がるので、踵が浅くなったり、爪先が当たるようになることもあり得ます。
こうなると、プロの技術に頼るしかないでしょう。そのプロはどこにいるかと言うと、健康靴を主力に扱っていたり、フィッティングに力を入れている靴屋さんが目安になると思います。例えば、「リコスタ」を輸入販売するバン産商は、健康靴を専門に取り扱い、「フスウントシューカルチャー」という直営店も持っています。
お子さんの足が細くて困っていたら、こんな靴屋さんに相談するのがよいと思います。
さて、うちのそうちゃんは、もうすぐ4歳。この春から年少さんになりました。園から上履きの要望はないとのことですが、上履き選びが役割に加わる日は近いようです。

 

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。