大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㉑ 「シンデレラ」のお話に込められた靴

童話は、子どもの情操を育むのに欠かせませんが、靴が登場するものが少なからずあり、最も有名なのが「シンデレラ」でしょう。

●「シンデレラ」とは「灰かぶり」
改めて紹介するまでもないですが、あらすじをざっと記してみます。
優しい母と、その母を愛する父のもとで、幸せに暮らす少女がいました。しかし母が亡くなり、父が後妻を迎えると、生活が一変してしまいます。
継母には二人の連れ娘がおり、継母は、少女を疎んじ、いじめます。掃除に、洗濯、部屋も奪われ、ベッドさえ与えてもらえず、暖炉の灰で暖を取り眠るしかなく、いつも灰だらけ。いつしか「灰かぶり=シンデレラ」と呼ばれるようになります。
ある時、お城で舞踏会が催されます。義姉二人は美しく着飾って出掛けていきます。私も行きたいと羨むシンデレラ。すると魔法使いなどの不思議な力によって、美しいドレスと靴を与えられ、二頭立ての馬車でお城に。但し、夜の12時までには帰って来るようにとの条件付きでした。
王子は、シンデレラを見ると、一目で魅了され、二人は楽しい時を過ごします。すぐに約束の12時が迫り、シンデレラは帰ります。余りの楽しい時に再び舞踏会を訪れると、王子との時間に我を忘れてしまいますが、12時の鐘の音に我に返り暇乞いもそこそこに階段を駆け下ります。その時、靴を片方落としてしまいます。
その後の顛末は、皆さん、よくご存じです。

●いくつもある「灰かぶり」のお話
シンデレラを美しく変身させるのは「魔法使いなど」と書きました。“「など」”とは、どういうこと?魔法使いがカボチャを馬車に変えるんじゃなかったの?”と思われた方がいらっしゃったかもしれません。その通りなのですが、それはシャルル・ペローによる「サンドリヨン(Cendrillon=フランス語で「灰かぶり」=シンデレラの意)」のもの。実は「灰かぶり」の物語の作者は一人ではなく、また世界各地に似たようなお話が伝えられています。靴もガラスの靴ではなく、金の靴や銀の靴、中国に伝わるおとぎ話では毛皮の靴なのだそうです。
さらにあらすじで省略した最後の顛末にも、皆さんが余りご存じないお話が含まれたものがあります。
それは、グリム童話の「シンデレラ」。そして、とても怖いのです。
片方の靴を携え、王子がお付きの者を従えてシンデレラの家にやって来ました。二人の義姉は小さな足が自慢でしたが、それでも二人とも足が入らない。そこで姉は爪先、妹は踵を切り取り、足を無理矢理に靴の中に押し込みましたが、二人とも靴から血が滲み、偽りがばれてしましまいました。
ところが、シンデレラが履くとぴったり!めでたし、めでたしとなるのです。

●足に合った靴こそが幸せをもたらす
足の一部を切り取るという恐ろしいことが、なぜ童話の中にあるのでしょう。それは、靴が靴としてではなく、何かの隠喩であるからです。
でも、隠喩を探らなくても、靴とは、どうあるべきかを教えてくれてはいないでしょうか。
足に血が滲むような痛みを強いて、靴を履いても、幸せにはなれません。靴が足にぴったり合っていてこそ、幸せをもたらしてくれます。そう言っているようには思えませんか。
シンデレラのお話を読み聞かせる機会があったなら、「足にぴったり合っていてこその靴。痛みを我慢して履いても、幸せに向かって心地よく歩くことはできませんよ」と付け加えてみてはいかがでしょう。
そして、靴に込められた隠喩を知りたかったら、かなり前にベストセラーになった『本当は恐ろしいグリム童話』(桐生操著・KKベストセラーズ刊)を読んでみるのも一興。別の意味で靴が奥深い存在であることに触れられます。

童話に込められた『本当は恐ろしいグリム童話』
(桐生操著・KKベストセラーズ刊)

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。