大谷知子

子供の足と靴のこと

連載⑰ 相模原のワカヤマさんをお訪ねしました

皆さんは、子供靴をどこで買うのでしょうか?
ショッピングモールに入っている総合スーパーの靴売場でしょうか。それともデパートの子供靴売場でしょうか。最近では、郊外のロードサイドにある衣料品店や子供用品店チェーンというケースも増えているかもしれません。
この記事は、ドイツの子供靴「リコスタ」ホームページに掲載されていますが、「リコスタ」が、ショッピングモールにあるような靴売場で買えるかというと、残念ながら、難しいです。
では、どんな売場で買えるのでしょうか。今回は、「リコスタ」を販売している靴屋さんを訪ねてみました。
神奈川県相模原市のワカヤマさんです。小田急江ノ島線・東林間駅から数分のところにあります。最近はシャッター商店街が珍しくない中で、賑やかではないものの、生きているお店が多いように感じられ、好感が持てる商店街でした。
そしてワカヤマさんを一目見て、ちょっと驚いたのが、完全クローズドスタイルの店だったことです。

●クローズドスタイルの意味
例えば八百屋さんは、店先にキャベツ、にんじん、きゅうりなどが並べられ、店と店外を仕切るドアはありません。これがオープンスタイル。クローズドは、その反対。ドアがあり、開けないと店内には入れず、店内の様子はウインドーから覗き見るしかないというスタイルです。オープンスタイルは、この上なく入りやすいですが、クローズドは入りにくいのがメリット。ドアを開けるには勇気がいるので、かなり欲しいと思っている人しかドアを開けません。お店側としては、入って来た時点で、単なる冷やかしではないことが、ある程度分かります。そこがクローズドのメリットです。
靴屋さんの多くは、都心のブティック的な店でない限り、オープンスタイルが一般的。それが、ワカヤマさんは、クローズドなのです。そして店内に入ると、陳列は壁面の陳列棚だけ。中央に陳列はなく、広々としています。
ワカヤマさんの創業は、1964年。その当時は、オープンスタイルの賑やかなお店でした。クローズドスタイルに改装したのは、1989年のこと。その頃、足の健康への関心が高まっていましたが、ワカヤマさんは、お客さま方のこうしたウォンツに応えようと、整形外科の理論とノウハウを取り入れて作られた、ドイツの健康靴を扱い、傷んだ足を矯正する中敷製作やケアも 行う店に転換したのです。
その表明、言い換えると、普通の靴屋ではないことを伝える手段が、クローズドというスタイルであり、広々とスペースをとった店内は、例えば歩いてみてフィット具合を確かめるなど、健康靴の良さを十分に活かして履いていただくことを実践する場なのです。

●積み重ねが築いた相談できる関係
実は、今回の訪問には、ちょっとした講演を行うという目的がありました。お店に着いて間もなく、ワカヤマさんのお客さまが三々五々来店されました。
その中の、お若く見えましたが、40代と思われる女性、バッグの中からバレリーナのような靴を取り出し、店主の若山和紀さんに「他所のお店で買ったんだけど、左右でサイズが微妙に違うの。中敷とかで調整できるだろうか」と。
若山さんは「できる、できる」と対応していましたが、そのお客さまが左右の大きさが違うことに自ら気付いたことが気に留まりました。いい加減な靴を、いい加減なフィッティングで履いていると、こうした違いに気付ける足感覚は育たないと思ったからです。
講演が終わると、お子さん連れで聞いてくれていたお母さんが「まだ大丈夫でしょうか。見てもらえますか」と。買い換え時期チェックの依頼です。
クローズドというお店のスタイルは、いわば敷居を高くしているということですが、その実、ワカヤマさんはアットホーム。子供靴に限らず、足の健康と快適な歩きを提供し続けることによって、お客さまの足&靴意識を育て、気軽に相談できる関係を築けている。それを目の当たりにしたのです。
子供靴の大切さを啓蒙するセミナー的なものが開かれるようになっているし、妙に知識が豊富な頭でっかち的お母さんもいるようですが、ワカヤマさんのような店が生活圏内にあり、靴を買うことを通して、靴と足についての知識が蓄積され、靴、そして子供靴の大切さが自然と意識できるようになる。そんなことが起こっているような気がしたのでした。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。