大谷知子

子供の足と靴のこと

連載67 暮れの履物の記憶

歳月人を待たずと言いますか、まさに光陰矢のごとし。新しい年を迎えたのは、つい昨日のことだったようなのに、あと半月余りを残すのみです。
12月を迎えると、なんだか忙しない気分になります。これをやっておかなければ、あれもやっておこう、大掃除はいつやろう、お節は…等々。今日が明日になることに変わりはないのですが、年が改まるとなると、区切りをつけたくなります。
師走とは、良く言ったものだと思います。その由来は、諸説があるようですが、昔は冬にお坊さんを招きお経を上げていただく家が多く、お坊さんが忙しく走り回ることから「師(導師=僧侶)が馳せる=しがはせる」から「しはす」になったとか。普段は座してお経を唱えているお坊さんが走り回るのですから、さも忙しそうです。
でも、子どもの頃は違いました。12月になり、お正月が近付くとうきうきしていました。
私は、農家の生まれ。子どもの頃は、60年余り前のことです。
暮れの一大イベントは、何と言っても餅つきでした。町に住む親戚の分までつきますから一日仕事です。前の日から水に浸しておいた餅米の水を切り、かまどに掛けた蒸籠に。蒸し上がると、土間に設えた臼に入れペッタンペッタン。これは父の仕事です。途中で餅が臼にくっ付かないように、杵が上がった瞬間に水をつけた手で餅を返します。これを「捏ね取り(こねどり)」と言ったと思いますが、小学校高学年になると、恐る恐る挑戦。父が「捏ね取りができれば嫁に行ける」と。できた時、大人になったような誇らしい気分でした。
つき上がった餅は、まずお供えに。おばあちゃんに「よく撫でるといい子になるよ」と言われ、くるくる丸めました。昼ご飯はもちろん、つきたての餅。あんころ餅、からみ餅、それにわが家では納豆餅。美味しかった!

●お正月は、何から何まで新品
こんな具合に暮れの思い出は尽きないのですが、お正月には下着から新しいものを着せてもらったことも忘れられません。
大晦日の夜、お風呂から上がると、上下とも新しい下着が揃えられています。それを着て眠った元旦の朝は、新しいセーターやズボン。きものを着せてもらえることもありました。
今では、新しい服を買ってもらうのは日常的なことになっていますが、60年余り前と言えば、昭和30年代。当時は、衣服の新調は、特別な時に限られていました。
そして新しくしてもらえるものが、もう一つ。履物、下駄です。
田舎ですので、近くに衣服はもとより履物を売っている店はなく、年に2回とか、3回、下駄屋さんが自転車で回ってきました。そんな事情があったのかもしれませんが、お正月、それにお盆には、下駄を必ず買ってくれました。
元旦の朝、お節を食べ、お年玉をもらうと、新しい下駄を履いて、鎮守さまに初詣。セーターやズボンだけでなく下着まで新品。お正月は、すべてが一新されうきうきでした。
さて、だからそんなお正月のためにお子さんの靴を新調してください。そうは言いませんが、靴、さらに足が傷んでいないかをチェック。そして1年間に足がどのくらい成長したかを確かめるのは、成長を明確に意識し、記憶に刻むことにおいて有意義なのではないでしょうか。
では、良いお年をお迎えください。

鏡もちの画像

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。