大谷知子

子供の足と靴のこと

連載79 シュマール(狭い)から出た実

「シュマール…」
「なに? しゅま…」
「シュマール。ドイツ語で“狭い”って意味なんやけどね、幅の狭い足の子が増えてるんですわ」
「そうなんよ。私、足育講座やってるやろ。子連れ参加やから、子どもの足を測るんよ。狭い子、多いわ」
「幅の狭い子ども靴なんて、あるの? 大人もんでも、ないことはないけど、既製靴では難しいやろ」
「それが、子ども靴でも、ドイツにはちゃんとあります。それが、シュマールでんねん」
「WMSやね」
「Wが広い、Mが中間、そんで狭いは、シュマール(schmal)やからS。それで“WMS”と言うんやけど、日本にも、こういう規格があったら、子どもは、どんなに嬉しいやろと、最近、つくづく思いますねん」
「私も、同感やわ」
「つくってしまえば、ええやん」
「ええっ⁈ そりゃまた、大胆な発言やな」
「つくれんことないやろ」。
「そりゃそうですけど、木型をつくらなならんし、製造メーカーは、どうするんでっか。国内には、子ども靴もつくれるメーカーなんで、ないんとちがうか」
「確かに。昔は、神戸にあって、わし、そこの息子と親しかったけど、もうないわ」
「……」
「でも、台湾にはあるで」
「そこと、まだ繋がってるんでっか」
「連絡取れるよ」
「おもしろいやないですか!ここには、足の専門家、小売店がおり、製造と輸入のプロもいはる。僕は、マーケティング、それにマーチャンダイジングも考えますわ。やりましょや!」
「シュマールから出た実(まこと)やな。やろ、やろ!」
「さんせーい!」
「よっしゃ、わし、早速、動くで!」
「プロジェクト名は、4人の苗字の頭文字を取って、ISAMや!」
「いいね!」
「ISAMに、かんぱーい!!!!」

●子どもの足の大規模調査なんてことになったらいいのに…
関西のとある地方都市。靴仲間が集った居酒屋で、こんな話があったらしいのです。
足幅の狭い足の子どもは、一定の割合でいることは、確かです。子ども靴製造メーカーが長年、続けている足型測定データでも、その事実は、明らかになっているようです。しかし、足幅の狭いタイプは、製品化には至っていません。狭い足の子どもがいることは確かだが、採算ベースに乗る数ではないことが理由のようです。
改めて書くまでもなく、「リコスタ」は、ドイツ靴研究所が策定・運営する子ども靴規格「WMS」に準拠した子ども靴です。
これまでに書きましたが、その始まりは、1950年代に一人の医師が行った、足に問題を持つ子どもが増えているという報告でした。これに着目したドイツ研究所が、靴メーカーに呼びかけ大規模な足型調査を行ったところ、医師の報告が事実であることが実証され、「WMS」が生まれました。そして「WMS」は、三つの足幅を持つばかりでなく、屈曲位置や爪先余裕などを細かく規定した、子どもが足を傷めることなく健康に育つための靴型規格です、これも、何度か、書いています。
足幅が狭い子どもが一定程度いること、虚弱な足が増えていることなど、子どもの足の変化や問題を認識している靴関係者は、少なからずいるはずです。
ドイツのようにエイッと、大規模足型調査といったことにはならないものでしょうか。
ISAMのように草の根で足幅の狭い靴をつくろうとしている人たちもいるのですから。
ISAM、頑張れ!

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大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。