大谷知子

子供の足と靴のこと

連載60 そうちゃんのくつ 4

靴選びで重視するのは、どんなことですか?
靴についてのアンケート調査で必ず設定される質問です。そして掲げられている選択肢は、次の三つ。
・デザイン
・価格
・履き心地
結果は、多くの調査で
1位 デザイン
2位 履き心地
3位 価格
このようになるのが一般的です。
私の場合はというと、そんなに単純ではないように思います。
新しい靴を買おうと決めると、どんなタイプか、例えば革靴なのか、スニーカーなのか、それにお財布の状況を加味して、だいたいの購入価格を想定します。そしてそのタイプと価格帯を扱っているであろうお店へ。
“これだ!”“これかな…”というデザインに出合えたならば、試着。自分のサイズとその前後のサイズも履き比べ、踵の納まり具合や爪先余裕に問題がないと思えるサイズを購入。ただ悩ましいのが、第二候補として選んだデザインの方が、フィット感が良い時。かなり悩み、デザインがいちばん気に入っている方を購入してしまうことも、間々あります。
このように購入までの思考回路の順位は、価格、デザイン、履き心地の順。購入決定の要素で見ると、デザイン、履き心地、価格の順になります。何をいちばん重要と考えているのか。悩ましいところです。

●足感覚がついてきたんだ!
さて、タイトルの通り、問題は、そうちゃんです。
そうちゃんの靴を決めているのは、かく言う私です。このコラムで書いている通り、そうちゃんの足が健康に育って欲しいという思いから信頼できる靴職人に作ってもらい、成長に合わせて届けています。
でもそうちゃんは、他の靴も持っています。お母さん方のおじいちゃんがプレゼントしてくれたものです。
どんな靴かと言うと、黒のナイロンメッシュ製のスニーカータイプ。と言っても、羽根物ではありません。面ファスナーの引き返しタイプのストラップが付いた、メリージェーンのようなデザイン。おじいちゃんは、履かせ易さを考えた上で選んだように思います。
そうちゃんは、こっちの靴を履いていることもあり、私としては……。
ところが1ヵ月くらい前のこと、そうちゃんのお父さん、つまり息子が、こう言ったのです。
「最近、出掛ける時に玄関で“くちゅ、くちゅ”と言い、指差すんだよ」。
どっちを指差したか。ジャジャーン、私の方でした!
思わず笑みがこぼれてしまいましたが、その裏側で足感覚がついて来たのだと思いました。
足感覚とは、足が履き心地の良さを感覚として覚えるということであり、足に良い靴を履かせることのメリットとして言われています。足が履き心地の良さを覚えれば、足に良くない、また合っていない靴を履いた時、足が好ましくないと判断し、正しい靴を選ぶようになる。その感覚は生理的なものであり、デザインや価格といった一般に言われている判断基準より強いものと言えます。
その足感覚によって、そうちゃんは、靴を自分で選んだと考えられるのです。おばあちゃんの試みは、早くも成果を見たということになります。
しかし、他の理由が考えられないこともありません。赤ちゃんは、大人とは視野、それに認識できる色も違うのだそうです。色について言えば、彩度の高い色から見えるようになり、最初は赤、次に見えるようになるのが黃色やオレンジ。黒を認識できるようになるのは、最後とか。
私が送っている靴は、黃色です。
そうちゃん、どっち?

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。