大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㉜ おさらいしましょう、良い子供靴とは、どんな靴?

ここ数回、物語やドラマに登場する靴を題材に書きました。その中で言いたかったのは、靴の力。それも「良い靴」という条件付きでした。
では、良い子供靴とは、どんなものなのか。この連載を始めた頃に書きましたが、おさらいしてみましょう。
何を良しとするか。それを明らかにするためには、目的をはっきりさせなかればなりません。だって、自分の子どもを可愛く見せるのが目的となったら、リボンが付いた靴といったことになってしまいます。
そもそもなぜ、靴を履くのでしょうか。
靴(shoes)、もっと広く言うと、履物(footwear)の始まりは、外的要因、例えば暑い、寒いといったことから体を守るため。また精神的要因と言いましょうか、自分を高貴、あるいは特別な存在に見せるため、そんなこともあったと思います。
後者は、現代ならファッションとしての靴に繋がります。そして前者は、意識したことなどないと思いますが、靴を履く基本的な目的であることに変わりありません。自然のクッションを持たないアスファルトに被われた都市環境では、その意味はより増しているとも言えます。
そして子供たちにとっての靴には、さらに大事な目的があります。
またおさらい。連載①に書いたことです。
生まれたばかりの赤ちゃんの足の骨は、ほとんどが軟骨。生まれてから軟骨に徐々にカルシウムが溜まり、骨に変わる。そのスピードは、すごくゆっくり。1歳半くらいになっても、踵の骨の一つは、まだ骨になっていない。足は、生まれてから、そして歩くことによって完成される。
子供たちにとって靴は、足を守り、育てるための道具なのです。
そのためには、まず踵。真っ直ぐに立ち、また靴の中の足を正しい位置に保つために、踵をしっかり作らねばなりません。
アーチが未完成なので、歩く際のあおり運動が十分にできません。だからあおり運動において足が屈曲する指の付け根あたりが、靴も曲がらなくてはなりません。
また上記と同じ理由により、次の一歩に繋げる蹴り出しが十分にできないので、爪先が適正に上がっていなければなりません。
この他にもあります。良い子供靴のポイントを再掲しておきます。

●いい歳をしてやってしまった失敗と教訓
しかし、言うは易く行うは難しです。
この歳にして、最近、それを体験しました。
仕事柄、展示会によく行きます。ちょうど1年くらい前、以前から知っている靴会社の展示会に行ったところ、気に入った靴がありました。
私の足は、ヨーロッパのサンプル・サイズ「37」。展示されていたサンプルを履いてみたところ、具合が良い。何が良いって、靴の踵がしっかりとついてくるのです。
迷うことなく、注文させてもらいました。
約半年後、その靴が届きました。履き心地はチェック済みなので、喜び勇んで仕事に履いて出ました。
ところが、家を出てすぐに、何、これ?! 足を運ぶたびに靴の踵がスポスポ抜けるのです。こんなはずじゃなかった!!!!!
靴型を入れておく時間が短かったのか、サンプルと違う底材を使ったのか…。
理由は定かではありませんが、靴はちょっとしたことが履き心地に影響するのです。
「リコスタ」は、「WMS」というドイツの子供靴規格に則って作られています。
またまたおさらいですが、WMSの「W=広い」「M=中間」「S=狭い」。三つの幅を揃えていることからのネーミングです。
しかし、WMSが定めているのは、それだけではありません。むしろ靴の大本の設計図とも言える靴型設計に詳細な規定を設けていることに意味があると言えます。
例えば、前述の靴が屈曲する位置にポイントについては、サイズ35(足の長さ218.3㎜)までは爪先から36.5%、サイズ36(同225㎜)以降は35.5%の位置。また爪の変形の原因にもなる爪先の高さについては、足長によって9ランク定めており、例えばサイズ33(足の長さ205㎜)なら、爪先の高さは17㎜だ。
「行うは難し」故に「易き」に流れないように意図した規定と言うしかありません。
日本には、残念ながら「WMS」のような子供靴規格はありません。だからこそ、靴を買う側が「良い」を見分ける知識と知恵を持たねばなりません。この連載が、そのための一助になるなら、こんな嬉しいことはありません。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴辞典」(シューフィル刊)がある。